軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
「クーシーを……、クーシーを助けて……!」

ふらつく足で立ち上がりながら、シーラが懇願する。もう自分ではどうにもできない。後でどれほど叱られても、罰を受けても構わないから、どうかクーシーだけは助けて欲しかった。

アドルフはクーシーの傷を慎重に窺ってから、シーラに視線を向け直した。そしてもう一度頬を手で包み、今度はじっとシーラの顔を覗き込む。

「少しだけ歩けるか? 一キロ先に捜索隊がいる。そこに合流するまでだ」

身体が冷えきって上手く動かせないが、クーシーが助かるのならと、シーラは足にぎゅっと力を入れる。それに、アドルフが掛けてくれた外套が、心も身体も温めてくれている気がした。

しっかりと頷いたシーラを見てアドルフも頷き返すと、なんと彼はクーシーの身体を両腕で抱き上げて立ち上がった。

クーシーはかなりの大型犬で、身体の重さは一般的な成人男性より重い。それをしっかりと腕に抱き、歩き始めたアドルフを見て、シーラはポカンとしたあと慌てて後についていった。

(アドルフ様はすごい力持ちだったのね……)

確かに彼は体格がいい。背も大きくて肩幅もとてもガッシリしている。目で見たことはないが、抱きしめられたときの腕の硬さから、相当筋肉質だということもなんとなく予想できた。

だからといって軽々と大型犬を抱きかかえられるのは予想外だった。軍の兵士というのは行軍の際かなりの重さの装備で移動すると習ったが、アドルフもそうなのだろうか。

驚きながら後についていったシーラだったが、歩いているうちに足が冷たくなってどんどん感覚を失くしていく。布地でできた靴はすっかり冷たい雨が染みこんで、シーラの華奢な足を冷やすだけだった。

「あっ!」

かじかんだ足をぬかるみにとられ、シーラは泥水をはね上げて転んでしまう。顔も髪も、せっかく掛けてもらった外套も、泥だらけになってしまった。
 
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