軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
「シーラ!」
振り返ったアドルフが慌ててシーラのもとに駆け寄る。けれど彼は両腕にクーシーを抱えているので、手を貸すことができない。
するとアドルフはシーラに背を向け、その場に片膝をついてしゃがみこんだ。
「おぶされ。支えてやれないから、しっかり自分で掴まるんだぞ」
雨に濡れた顔を肩越しに振り向かせ言ったアドルフに、シーラはますます驚いてしまった。まさか、この状態でシーラのことまで背負おうというのか。
いくらなんでもそこまで負担は負わせられないと首を横に振る。けれどアドルフはじっとその体勢のまま動こうとしない。
「気にするな。お前をおぶったところで、小鳥がとまってるようなものだ」
シーラは迷った。本音を言えば、もう一歩も歩けない。感覚を失くすほど冷えきった足は痺れるばかりで上手く動かないし、体温が下がっているせいか身体が重くて仕方ない。アドルフの背に身を任せることができたら、どんなに楽だろうか。
けれど、シーラは立ち上がって首を横に振ると、アドルフの腕部分の服をちょこんとだけ摘まんだ。
「これでいいです。これで歩けます」
アドルフにすべて負わせるのではなく、彼に助けてもらいながら自分の足で歩くことをシーラは選んだ。
こんなに迷惑をかけた後では手遅れかも知れないけれど、いつまでも頼りなくて何もできない存在でいるのは、嫌だと思ったのだ。
アドルフは少し口を噤んでいたけど、やがて「足元に気をつけろ」とだけ言うと立ち上がり、腕に掴まるシーラと寄り添うように歩き出した。