軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
アドルフが足元を気遣いながら歩いてくれたおかげでシーラが再び転ぶようなことはなかったが、代わりに時間はだいぶかかってしまった。

それでも、あと数分も歩けば捜索隊と合流できそうなところまで来たとき、アドルフがふいに足を止めた。

「アドルフ様……?」

どうしたのかと思い呼びかけたシーラに、彼は「シッ」と口もとに指をあて、険しい表情で辺りを見回す。

そして腕に抱いていたクーシーをそっと地面に降ろすと、シーラを背に庇うように立ちながら刀帯のサーベルを抜いた。

「身を縮めていろ。俺の側から絶対に離れるな」

そう命じられ、シーラはようやく気がついた。コナラの樹の奥から、光る眼が幾つもこちらを向いていることに。

(野犬……!)

ウーと低い唸り声を聞いて、シーラの身が竦む。すると、ぐったりとしていたクーシーがピクピクと耳を動かし、何度も足を掻いてから重たそうに身体を起こした。

「クーシー!」

クーシーは苦しそうに息を荒げながらシーラの前に立ち塞がり、金色の眼で野犬達を睨みつける。

「クーシー! 駄目よ、そんな身体で戦っちゃ!」

シーラは傷だらけのクーシーの身体に必死に取り縋る。けれどクーシーは低い唸りをあげ牙を剥き出しにし、野犬に向かって威嚇することをやめない。

すると、アドルフがチラリと振り向いて言った。

「主のためなら命の最後の一片が尽きるまで戦うか。その気概、大したものだ。お前が人であったなら少尉にぐらいは取り立ててやったんだがな。だが、犬でよかった。妻の前で格好をつけるのは、俺ひとりでいい」

最後にふっと口角を上げて自嘲気味に笑うと、アドルフはクーシーごとシーラを庇うように一歩前へと踏み出す。それを合図に樹の影から飛び出してきた野犬を、勢いよくサーベルで薙ぎ払った。
 
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