軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
アドルフの迫力に気圧された野犬達が、威嚇をしながらも動きを止める。けれど、姿が見えるだけでも野犬はまだ五匹はいた。
一斉に飛び掛かってこられたなら、アドルフとてひとたまりもない。
一瞬たりとも気をゆるめられない緊張感に、シーラが息を呑んだときだった。
ギャウン!と悲鳴のような鳴き声をあげて、野犬の一匹が倒れた。
驚いて目を見張ると、さらに二匹、三匹と、野犬が地に伏せていく。その身体にボウガンの矢が刺さっているのを見つけ、シーラはいったい何が起きたのだろうかと辺りを見回した。
「……ようやく来たか」
小さく呟いて、アドルフがサーベルを構えていた腕を下ろす。それとほぼ同時に、バシャバシャと水を跳ね上げながら駆け寄ってくる大勢の足音が聞こえた。
「陛下、ご無事ですか!?」
先頭をきって駆けつけたのは、アドルフの側近で近侍侍従武官長のテオドールだ。侍従長のヨハンと違い常に冷静だが、今は珍しく慌てた様子で後ろに撫でつけた栗色の髪を乱している。
その後ろからも十余人の武官や衛兵らが駆けてきて、残った野犬を追う者以外はアドルフ達を囲んだ。
どうやら近くにいた捜索隊が異変を感じとって駆けつけてくれたらしい。ようやく助かったのだと、シーラは大きく安堵の息を吐き出すと、その場にヘナヘナと座り込んだ。
テオドールはアドルフの左腕を見て血相を変えると、すぐに応急処置の手配を部下に命じた。けれどアドルフは冷静にサーベルを鞘に戻すと、へたり込んだシーラの前に片膝をついてしゃがみ込む。
「大丈夫か。怪我はないか」
「わ、私は大丈夫です……、でも、アドルフ様が……っ」
雨の雫に混じりながら、アドルフの腕から鮮血が滴っているのを見て、シーラはついに泣き出してしまう。