軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
「ごめんなさい、私のせいで……、ごめんなさい……」
自分の迂闊な行動のせいで、たくさんの人に迷惑をかけたうえ、アドルフに大怪我を負わせてしまった。シーラはあまりの申し訳なさに消えたくなってしまう。
流れる血を止めたくてシーラがおずおずとアドルフの腕にふれようとすると、手を掴んで止められた。怒られるのかと思い顔を見上げると、アドルフは眉尻を下げて少しだけ困ったように微笑む。
「女は血で手を汚すな。大切なものを守ってできた傷は男の勲章だ、お前が泣くことはない」
そうしてアドルフは掴んでいたシーラの手を口もとに寄せ、甲にひとつキスを落とした。
「胸を張れ。俺に守られたことを、誇りに思え」
シーラは、こんなに胸が苦しくなったことはない。胸が熱くて、なのにギュウギュウと締めつけられるようで、涙が溢れ出る。
ボロボロと涙を零しながら言葉も出せずしゃくりあげていると、手を離したアドルフがその手で頬を拭ってくれた。
「泥だらけになってしまったな」
シーラの頬をすっぽり包んでしまうほど大きな手が、優しく何度も涙の跡を拭ってくれる。シーラはその手に自分の手を重ねると、愛おしむように頬を摺り寄せた。
「……アドルフ様、アドルフ様……」
狂おしいほどに、心が彼を求めていると思った。心だけじゃない、身体もだ。今すぐアドルフに抱きしめてもらいたい。
とても大切で、涙が止まらないほど胸が苦しくて、心のすべてがアドルフに向かっている。この激しい感情を伝えたいのに、シーラにはそれを現す言の葉が見つからなかった。
もどかしく思いながら名を呼ぶことしかできないシーラを、アドルフは慈しむような眼差しで眺め、頬を撫で続けてくれた。
やがて、さらなる人数の捜索隊が到着し、アドルフの傷の手当てやクーシーの搬送が始まる。シーラも毛布と雨除けのマントを着せてもらい、馬に乗せられて運ばれた。
こうして雨の降りしきる冬の午後、シーラの失踪騒動は幕を閉じた。