軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
初めて入るアドルフの部屋は、シーラの部屋の倍は広かった。黄金のダマスク柄が入ったボルドーカラーの壁紙と鏡板に覆われ、壁にはいくつものアルガン式ランプが備えられている。大人が四、五人は眠れそうな巨大な四柱式寝台の他にも、ゆったりとしたシェーズロングが備えられ、白と金箔を貼られたテーブルにはいつでも食せるように籠に入った果物と、ワインとグラスも用意されてあった。

カーテンはすでに開かれ室内は明るかったが、アドルフはシャツとトラウザーズにナイトガウンを羽織った姿のままベッドに腰掛けていた。

彼はいつも詰襟の軍服をきちんと着込んでいるので、こんな風に首や鎖骨が見えるのは初めてだ。それにまだ朝の支度が済んでいないので髪もラフに乱れているし、顎に少しだけ髭も見える。

その姿がやけに大人の男であることを意識させ、シーラの胸をさらにドキドキとさせた。

「……なんの用だ」

顔に掛かってくる前髪をうっとおしそうに掻き上げて、アドルフがボソリと言う。色気の漂う彼の姿に見入ってしまっていたシーラは慌てて我に返ると、表情を引きしめてベッドの前まで行った。

「あのね、アドルフ様、あの……き、昨日はごめんなさい……!」

目の前で突然深々と頭を下げたシーラに、アドルフは虚を突かれキョトンとした表情を浮かべる。

おずおずと頭を戻したシーラは臆病な子犬のような眼差しでアドルフを見つめ、モジモジとスカートの裾を握りしめた。

「あのね、アドルフ様……、笑わないで聞いてくださいね? 私、アドルフ様に恋をしたみたいなんです。だから、その……アドルフ様にキスをされたとき、とっても嬉しかったの。だから、だから……、もしかしたらアドルフ様が社交場で他の女性からキスの誘いを受けて、それで……キスをしていたら嫌だなって思ったらすごく悲しくて、なんだか腹が立って……昨日はあんな態度をとっちゃったんです。ちゃんとお話聞かなくてごめんなさ――」

すべてを言い終わる前に、シーラの身体はアドルフの腕に強く引き寄せられていた。

座っている彼の肩口に顔を押しつけられるように抱きしめられてしまい、言葉が紡げない。

(――アドルフ様?)

胸を痛いほど高鳴らせながらおとなしくしていると、耳の近くで小さく呟く声が聞こえた。

「あまり可愛いことを言うな。俺は寝起きが悪い方なんだ、……理性が保てなくなるだろうが」

すぐそばにあるアドルフの顔が、耳まで赤く染まっているように見えて目をまばたいた瞬間、クルリと視界が反転した。
 
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