軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
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援軍を連れたアドルフは軍楽隊の勇ましいラッパの音と共に、勝利と健勝を願う民の大歓声を受けて帝都を出発した。
その華々しい様子を、シーラは宮殿の最上階にあるバルコニーからクーシーと共に眺めていた。
宮殿前広場で行われた出発式典に出席してアドルフを見送りたかったが、シーラはまだ式典の儀礼を習っていない。皇妃教育が終わるまでは半ば秘せる花嫁でもある自分の立場を、シーラはもどかしく思う。
「……クーシー。私、もっとお勉強を頑張るわ。しきたりや儀礼をきちんと覚えて、皇妃らしく立派に振る舞えるようになれば、きっともっとアドルフ様のおそばにいられるもの」
強引に連れてこられたとはいえ、ワールベークに来てからシーラはアドルフに助けられっぱなしだ。彼に迷惑をかけるような存在になりたくない。彼を支えられるようになりたい。
規則正しい列をなして街道を進んでいく軍隊を遠目に眺めながら、シーラはそう強く願う。
「私、アドルフ様のお力になれるような、立派な皇妃になるわ」
決意を込めて言ったときだった。
隣に並んでいたクーシーの耳がピクリと動き、突然唸りをあげて振り返る。
何事かと思いシーラも振り向くと、掃き出し窓から見知らぬ男がパチパチと手を叩いてバルコニーへ入ってきた。
「さすがシーラ王女殿下。気高きお心は御母堂譲りでいらっしゃいますね」
男は襟の折り返しに豪奢な刺繍の入ったルダンゴート(襟付き上衣)を着て、レースのシャボとクラヴァットとカフスの揃いを身に着けている。その高貴な身なりから宮廷の関係者だとは予想がついたが、だいぶ年若く見えた。
頬の横で切り揃えた明るい栗色の髪と、猫のような目の形が少年らしい面差しをしており、シーラと同じ十代後半くらいに思える。