軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
 
そんなことを言われても、簡単には頷けない。宮殿に置いていかれることもつらいが、何よりアドルフの身に万が一のことがあったらと思うと、怖くて悲しくてたまらないのだから。

「でも……、でも……」

今にも零れそうなほど目に涙をためながら言い淀むシーラに、アドルフはまっすぐに瞳を見つめきっぱりと言い切った。

「けれど、俺は絶対に死なない。必ず生きてここへ帰る。必ずだ」

未来がどうなるかなんて、神様にしか分からない。けれどアドルフは少しのためらいも見せずに告げた。

シーラはなんとなく理解する。これが軍神皇帝という選ばれし人なのだと。

なんの根拠も確証もなくとも、きっと彼が銃弾に倒れることはない。そういう星のもとに生まれついているのだから。

それでも完全には消しきれない不安を、ギュッと手を握り込んで抑えながら、シーラは顔を上げてアドルフを見つめた。

「……お約束ですよ。必ず無事に帰ってきてください」

涙をひとすじ零しながらも気丈に言って見せたシーラに、アドルフは愛おしいものを見るような眼差しで微笑した。そして椅子から立ちあがると、向かい側の席のシーラのもとまでやって来る。

アドルフが両腕をこちらに向かって差し伸べたので、シーラも椅子から立ち上がり、素直にその腕の中へ飛び込んだ。

「……手紙を書きます。毎日必ず書きます。だからアドルフ様も、お返事をください」

「分かった。イルジアの司令部に着いたら返事を書こう」

グスグスとしゃくりあげながら強くアドルフの身体を抱きしめれば、大きな手が宥めるように優しく背を撫でてくれる。

「キスを……キスをしてください。あなたが遠くへ行っても、寂しくならないように」

シーラのおねだりに、アドルフはそっと彼女の頬を包むと優しいキスで応えてくれた。

いつまでもこのままでいたいけれど、唇を離すとシーラは手の甲で涙を拭って、精一杯微笑んで見せる。

「いってらっしゃいませ、陛下。あなたに神様のご加護があらんことを、お祈りいたしております」

戦場へ向かうアドルフの憂いにならぬよう、皇妃らしい強さを見せられるように。
 
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