軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
「心配だわ……。お元気になられるといいのだけど……」
初めて具体的に思い描けるようになった母の存在は、日に日にシーラの中で大きくなっていった。
どんな声で喋るのだろうか。どんな風に笑うのだろうか。優しい人なのだろうか。良き母なのだろうか。
十八年前、シーラを手放さなくてはいけなくなったとき、母は泣いただろうか。遠く離れた娘のことを思って、毎日祈りを捧げてくれていたのだろうか。今でもシーラを娘だと思い、会いたいと願ってくれているだろうか。
アドルフがいなくて寂しくてたまらない心を、シーラは母を想う時間で埋めていく。
そしてそれは、自然とボドワンと共に過ごす時間が増えていくということでもあった。
「ねえ、ボドワン。今日も一緒にお茶をしましょう。あなたの好きなスパイスのクッキーも用意させるわ。だから今日も、お母様のお話聞かせて?」
クラーラのことを教えてくれるのは、ボドワンただひとりである。ポワニャール語の授業のない日でもシーラは大使館からボドワンを呼び、毎日のようにお茶や散歩の時間を共にした。
ボドワンがクラーラの話をしてくれることは、メア宮殿の者には内緒にしなくてはならない。宮殿の者達が口止めされていることをボドワンが勝手にしゃべっていると知れたら、きっと彼は講師の任を解かれてしまうだろう。
だからシーラは彼とお喋りするときは必ず人払いをしてふたりきりになった。もっとも、クーシーはいつものように側にいたけれど、彼はどうもボドワンのことがあまり好きではないらしい。
お喋りが始まるとクーシーはつまらなさそうな顔をして部屋の隅でふて寝するか、散歩中ならば知らん顔で先に行ってしまうので、ふたりの会話を邪魔する者は誰もいない状態だ。
そんな親密な関係を続けていれば、ボドワンがシーラにとって大切な存在になっていくのも、当然のことである。
ボドワンが講師になってから二週間が過ぎた頃には、シーラはクラーラ以外の話題でも彼とするお喋りの時間がとても楽しみになっていた。