軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
「まあ、ボドワンは器用なのね」
ある日の散歩の時間。いつものように果樹園にきたシーラは、蝶を追いかけて遊んでいるクーシーを眺めながら、ボドワンとベンチに隣り合って座っていた。
ちぎったリンゴの葉を器用に笛にして遊ぶ彼に、感心と好奇心でキラキラと輝く目を向ける。
「私、指笛は吹けるけど、葉っぱの笛は吹いたことがないわ」
「よかったらお教えしますよ。シーラ様ならきっとすぐに吹けるようになりますよ」
そう言ってボドワンは葉を丸めたり重ねたりして、様々な葉笛をシーラに教えてくれた。
楽しい遊びを誰かと共有するのは、シーラにとって初めての経験だ。ずっとクーシーしか友達のいなかったシーラにとって、ボドワンは初めてできた人間の友達といえよう。
葉笛で音が出せるようになるとシーラは喜んで、様々な葉っぱで試して遊んだ。それから、葉笛を教わったお礼に、歌を披露してみせた。
「いやあ、素晴らしい! ソプラノのような華やかさもありながら、カストラートのような透明感もある。驚きました、シーラ様がこれほどの美声の持ち主とは」
心から感嘆した様子でボドワンが手を叩くと、シーラは嬉しそうにはにかみながらベンチの隣に座り直す。
「カスト、ラ……? って、なんでしょう?」
初めて聞く単語に小首を傾げて質問すれば、ボドワンは常盤色の瞳をにこりと微笑ませて言った。
「永遠に少年の声を持つ男性歌手のことですよ。シーラ様はオペラはご覧になったことは?」
「ありません。でも、結婚式を終えて公式のお披露目が済んだら連れていってくださると、陛下がお約束してくださいました」
「そうですか。それでは僕が先にシーラ様をお誘いする訳にはいきませんね。残念、あなたをポワニャールの劇場にお連れしたかったのに」
残念そうに頭をかいたボドワンを見て、シーラはクスクスと笑う。
「いつか外交でポワニャールを訪れるかもしれません。そのときはぜひ、案内してくださいね。楽しみにしているわ」