軍人皇帝の幼妻育成~貴方色に染められて~
シーラはボドワンのことが好きだと思う。彼は楽しいことや新しいことをたくさん教えてくれるし、一緒にいると笑顔が絶えない。シーラが何か失敗をしても、責めるどころか笑い飛ばしてくれるその明るさは、心をたくさん元気にしてくれた。
アドルフに抱く気持ちとはまったく別物だけど、シーラは彼のことも大切な存在だと感じる。
そして、ボドワンがいてくれてよかったと心から思う出来事が訪れたのは、それから十日後のことだった。
***
南イルジアへ行っているアドルフと遠征軍からは、二、三日に一度伝令の兵士が報告にやって来ている。
シーラは毎日その報告を心待ちにしていた。アドルフは無事なのか、戦況はどうなのか、固唾を飲んで聞かずにはいられない。そして無事だという報告を受けた後、伝令がアドルフからの手紙を預かってきていたりすると、安心と嬉しさで涙が出そうになった。
アドルフの手紙はいつも、血生臭い戦場にいるとは思えないような穏やかな内容と筆致で綴られていた。南イルジアはひと足先に春がきていて、総司令部のある街には花売りがもう出ていること。ワールベークの庭園にもじきに見事なマグノリアが咲くから、自分の代わりに見て欲しいということ。復活祭の準備がそろそろ始まるので、司祭の指示をよく聞き守ること。シーラに語りかけてくる姿が目に浮かぶような、優しい内容ばかりだ。
もちろんシーラも、それにせっせと返事を書いた。お天気の様子から今日食べたもの、どんな授業を受け何を学んだか、何が上達したか。そんな些細な報告から、今日感動したことや楽しかった出来事などを明るく綴り、そして必ず彼の無事を祈る言葉を贈った。
女である自分は戦場に行くことができない。本当は心が裂けそうなほどアドルフに会いにいきたいのに、シーラには無事を祈ることと、彼に心配をかけないように明るい手紙を書くことしかできないのがもどかしい。
それでも、アドルフが無事にさえ帰ってきてくれればいいと、シーラは寂しさと不安をこらえて毎日を過ごしていた。
ところが――。
「今……なんて……」
五日もの間を開けてやって来た伝令は、青ざめた顔のシーラや宮廷官達に囲まれて、言いづらそうに報告を繰り返した。