メーデー、メーデー、メーデー。

 でも、だからか。吉田先生が木南先生の口から早瀬先生の名前を聞いた時に微妙な反応をしたのは。木南先生と早瀬先生がギクシャクしていたのは。

 興味と好奇心を抱き、『なんでそんな事になったのだろう。もしかして…』などと頭の中で仮定の物語を作り上げながら医局へ向かう。

 結局オレの頭では昼ドラの様な笑える愛憎劇しか浮かばないまま、医局のドアを開けると、オレの脳内では『想いを寄せていた早瀬先生が、若くて可愛い桃井さんに心を奪われた事に怒り狂った』木南先生が自分のデスクで、午後からオペをする患者さんのCTを再確認していた。

 「脳腫瘍ですか」

 オレの脚本上、残念な女・木南先生に話し掛ける。

 「そう。この患者さんね、投薬が上手く行った人なの。だから綺麗に取り除ける」

 しかし、実際の木南先生はそんなヒステリックな人間ではなく、完璧にオペが出来そうなCT画像を見ながら嬉しそうにしていた。
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