ただいま冷徹上司を調・教・中!
拭われた涙が乾いてしまうほど、私達はずっと見つめ合っていた。

「平嶋課長?」

言葉の真意が早く知りたくて、私は急かすように名前を呼んでみた。

「……ここは会社か?」

あからさまに不機嫌な顔になり、平嶋課長の手は頬から握りしめていた拳を包み込んだ。

「そうじゃないけど……」

そんなんじゃないけど、仮の関係の解消危機に厚かましく『凱莉さん』なんて呼べない。

「千尋が今何を考えているのか、正直今一つわからないこともあるんだが……」

平嶋課長は私の拳をゆっくりと解き、ぎゅっと強く握った。

「俺はもう、千尋のことを『久瀬』とは呼びたくない」

そう言った平嶋課長の瞳は、いつも見る『凱莉さん』だった。

「平嶋課長……?」

もう一度そう呼んでみると、平嶋課長は私の手から右手だけ離し、私の頬を軽くつねる。

「違うだろ?二人の時は名前で呼び合うって、ちゃんと決めたじゃないか」

「でも……」

それは恋人としてのルールであって、関係が終わってしまえば過去のこと。

今後も続くことじゃない。

「千尋、ちゃんと俺の名前を呼べよ。千尋には名前で呼んで欲しいんだ」

凱莉さんは私を優しく見つめ、唇をなぞりながら私が呼ぶのを待っている。

「ほら、早く」

急かすかのような言葉とは裏腹にゆっくりなぞる指に唇を開かれ、私の唇は魔法が掛ったかのように自然に名前を紡いだ。

「凱莉さん……」

「千尋……」

私が凱莉さんの名前を呼ぶと、凱莉さんは本当に嬉しそうに笑ってくれて、私を自分の胸の中に捉えた。
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