ただいま冷徹上司を調・教・中!
こんな浅はかな行動をしてしまった私なのに、平嶋課長はなんて優しい言葉をかけてくれるのだろう。

今までは仕事のときの冷たい平嶋課長しか見てこなかった。

もちろん、平嶋課長自身も誰にもプライベートを晒さずそう接してきたのだから当たり前なのだけれども。

見事なビンタをされて女にフラれた平嶋課長だが、きっと女性の方に非があったに違いない。

だってこんなに完璧な人なのだから。

「平嶋課長、本当にありがとうございます。もう少しだけここにいさせてください。十分くらいたったら帰りますから」

感謝と感動で胸が震える中、私は平嶋課長にもう一度頭を下げて最後のお願いをした。

「じゃ、コーヒー1杯でも飲んでいけ」

平嶋課長はさりげなくそう言うと、革靴を脱いで突き当たりのドアへと向かった。

「え……いいんですか?」

玄関までだと念を押されていたので、いくらなんでも図々しく上がり込むつもりはなかったのだが。

「いくら冷徹と言われていても、本当に玄関に放置はしない」

「平嶋課長……」

知ってたんですね、冷徹イケメンって呼ばれてること……。

「コーヒー飲んだら駅まで送るから」

「ありがとうございます……」

明日から絶対に『冷徹』なんて言いませんっ。

「お邪魔します……」

ヒールをちゃんと揃えて平嶋課長の後を追いかけようとして。

「すみません……。御手洗、貸して頂けますか?」

恥ずかしながら緊張でトイレに行きたくなってきた。

「ああ。右側のドアだ」

「はい」

左右にあるドアの右の取手に手をかけた途端。

「違うっ!俺から向かって右だっ!」

焦ったように大声で訂正した平嶋課長の言葉より、私が戸を引く方が早かった。

そこで私は、決して見てはいけないものを目にしてしまった……。
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