ただいま冷徹上司を調・教・中!
平嶋課長は私の機嫌の悪さを察したのか、いつもよりも仕事のスピードを上げて予定よりも早めに終わらせた。

帰る準備を始めたのは見えていたけれど、私は敢えて気付かぬふりをして平嶋課長の行動を待っていた。

カバンを持ち、同課の残っている社員達に「お疲れ様。お先に」と声をかけると、戸惑いがちに私のデスクに向かってくる。

さあ、どうする?

わざと視線も合わさずパソコンに向かったまま平嶋課長がどうするのか待つ。

平嶋課長ほ私の後ろに立つと小さな声で、「給湯室にいる」と囁き足早にその場を去っていった。

この些細な遣り取りでも注目を浴びるなんて。

平嶋課長という男がどれだけみんなに慕われているかが嫌でもわかる。

悔しい気持ちになりながら、私はさっさとパソコンの電源を落とし、平嶋課長同様に「お先に失礼します」と挨拶をして給湯室へと向かった。

足音を立てないようにそっと給湯室を覗くと、平嶋課長は溜め息をつきながら冷蔵庫に背を預けて腕を組んでいた。

私の不機嫌な行動と言動がなぜ自分に向けられているのか、原因を考えているのだろうか。

「お待たせしました」

笑顔も見せず、私は平嶋課長に声をかけた。

「いや……。どうしたんだ?」

「どうしたもなにも、恋人同士が一緒に帰るのは自然なことでしょう?」

「そうか……?」

「そうなんです」

平嶋課長にとっては自然でもなんでもないんだろうけど。

だから休みの間、なんの音沙汰もなかったわけだから。

……あ。

自分で言って、また腹が立ってきた。

「帰りますよっ」

溜め息混じりにそう言って給湯室を出ると、平嶋課長は慌てて私の後を着いてきた。
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