ただいま冷徹上司を調・教・中!
会社を出ても私はムスッとして半歩先を行く。

「どこ行くんだ?」

頃合いを見てそう聞いた平嶋課長をチラリと振り向きぷいっと逸らしてみた。

「おい、久瀬」

私の肩に手を乗せて振り向かせようとした平嶋課長に向かって、「私の家ですっ」と有無を言わせぬ強い視線でそう言った。

徒歩十分の道のりを黙って歩き、電車に乗った。

「久瀬もこの路線だったんだな」

「平嶋課長はいつも朝早くて帰りも私より遅いから会ったことないですもんね。私もこの前、平嶋課長のお家にお邪魔した時に知りました。一駅しか離れてないんですよ」

「へぇ……そうなのか」

特に驚くでもなく興味を持つわけでもなく、車窓を眺めながら呟いた平嶋課長に、私はなんだかまたイラッとした。

確かに仮の恋人関係は難しいかもしれない。

それでもちゃんと恋人として接してくれと言ったのに。

何一つ変わらないんだから……。

変わらないなら変えるしかない。

私の家に呼んだのは、その第一歩を踏み出してもらうためだ。

平嶋課長の下車駅を通り過ぎ次で降りる。

歩くこと十五分で私の住む六戸二階建てのコーポに着いた。

「2階です」

そう言って階段を上り始めた私の後ろで、平嶋課長はピタリと歩みを止めてしまった。

「……なにしてんですか」

「いや……一人暮らしの部下の家に上がり込むのはどうなのかと……」

……恋人として接してくれって言ってるのに。

「どうでもいいから早く来てください」

素っ気なく言い放つと、私は構わず階段を上り部屋の鍵を開ける。

それを見て平嶋課長は慌てて階段を駆け上ってきた。
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