戦国恋武
「何をしておる。早う着替えぬか。」
着方がわからず固まっている私に濃姫さんが声を掛けるが、それに対しフルフルと首を振る。
「この羽織りは嫌か?ならば…」
勘違いして、違う着物を取りに行こうとする濃姫さん。咄嗟に濃姫さんの袖をクイッと引っ張り引き止める。
「何じゃ?」
首を傾げる濃姫さん。
「…あっ、ごめんなさぃ…?」
袖を握っていた手を離す。
引っ張ってしまい、不快にさせてしまったであろうか?恐る恐る濃姫さんの表情を覗いてみる。…が、怒っている様子はなかった。
「何か言いたい事があるのであろう?ゆっくりで良いから言うてみよ。」
そんな優しい言葉まで頂いた。
「……あ、あの…着方が…わかりません。」
私の言葉を聞いて、ギョッとする濃姫さん。
「男物とはいえ、父やら兄弟やらの着替えくらい見たことあるであろうに。しょうがない奴じゃ。」
呆れた声を出しながらも、着物を広げていく濃姫さんはどうやら着替えを手伝ってくれるようだ。
兄弟はいないが、お父さんのスーツ姿ならばあるが、着物姿は見た事もない。着物なんて馴染みがなかった。
この時代に洋服などあまり無いだろう。着物の着付け覚えなきゃなぁ…などと考えていると、濃姫さんに手伝って貰いながら、なんとか着替えが終わった。ちなみに、晒しも濃姫さんがしっかり巻き直してくれた。
「よし!これで良い。なかなか良い色の着物じゃな。似合うておるぞ。」
着物の良い色など私にはわからないが、似合うと褒められ、少し照れる。そんな事を言ってくれる人などいなかったから。相変わらずの無表情の私だから、濃姫さんには照れてることなど伝わらないが。
「…照れておるのか?」
「っ!」
気付かれないと思ったのに。
「…どうして?」
「なんとなくじゃ。」
素っ気なく返す濃姫さんだが、今まで私の感情を読み取る人なんていなかったのに、気付かれた事にビックリだ。まぁ、読み取ろうとした人すらいなかったのが本当だが。