真夜中だけは、別の顔
「本宮? 急にどうした? ……大丈夫か?」
三輪が心配そうに伊吹の顔を覗き込む。
蒼月が、ほんの一瞬自分に会う為に出て来てくれた。そう思ったら胸の中に込み上げた熱いものが、涙となって溢れ出た。ぽろぽろと零れ落ちる涙を伊吹は慌てて拭い顔を上げた。
「おい、本宮って」
「……大丈夫です。もう──」
ただ、嬉しかった。ほんの一瞬でも蒼月に会うことができて。
もう、振り返りはしなかった。
蒼月は以前と変わらず、優しい目をしていた。
この数年間、彼がどのように過ごしてきたのかは分からないけれど、たくさんの制約つきではあるが、自分の運命を受け入れた上できっとそれなりに幸せだったのかもしれない。
さっき見た蒼月は、そういう顔をしていた。
「急ぎましょう、三輪さん。バス遅れちゃう」
「ああ」
晴太に出会って、蒼月に出会って。
伊吹がいま、この男の隣を歩いているのは、きっと彼らに出会えた過去があるから。
いくつもの出会いを繰り返し、本当に大切な人、本当の愛を知る。あの時の想いに後悔なんてない。
積み重ねた思いは、こうして今に繋がっている──。
「……ありがとう」
伊吹は誰にともなく小さく呟いた。そうして隣にいる三輪を見上げる。
「三輪さん。そういえばこの間の返事、今してもいいですか?」
そう言うと三輪がギョッとした顔をした。伊吹は彼の上司という仮面がはがれ落ちるこんな瞬間が好きだ。
「──はぁ?! 今?!」
「そう。今」
「仕事中だろう」
「分かってますけど。今、どうしても言いたくって」
「──つか、、なんで今だよ」
ぶつぶつと呟いた三輪の顔に妙な緊張感が走る。
「ふつつか者ですが──、こちらこそよろしくお願いします! 私、結婚してもしばらくはバリバリ仕事しますんで」
「──っ、あ?!」
「……ちょっとお!! “あ?!” って何ですか?!」
「いや。ビックリして。つか、ここまでいろいろ強引だったし……」
「大切にしてください。私も全力で大切にしますから」
そう言って伊吹が笑顔を見せると、三輪が見たこともないくらい顔をクシャクシャにして笑った。
その嬉しそうな笑顔に胸がギュッとなる。今、私が好きな人はこの人だ。
「大好きです」
「──すっげー、嬉しいんだけども。欲を言えば、もっとムードある感じで聞きたかったー」
「あはは。そう仕事中だった!」
「しかも、移動中な!」
二人顔を見合わせてクスクスと笑う。
幸せだ。蒼月に言った言葉に嘘はない。
「じゃあ、今夜泊めて下さいね! 仕切り直します」
「ああ。ベッドで頼むわ、ソレ」
「あはは」
繋げて行こう、小さな幸せを。
誰かを愛し、愛された経験は、未来永劫次の愛へと繋がって行くのだから──。
-end-
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拙い作品でしたが、最後までお付き合いいただいてありがとうございました。
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