真夜中だけは、別の顔

「本宮さん。細いのにけっこうガッツリ食うのなー」
「よく言われます。仲いい男友達に『その腹のどこに入んだー?』とか」

 伊吹はビールの入ったグラスを持ち上げてフフ、と笑う。あれから職場の二階に並ぶレストラン街にある定食屋で腹を満たした。お酒も入って自然とお互い口が滑らかになる。

「男友達多いんだ? ──いや、うん。多そうだな」
「なにしろ性格がこんなんなんで」

 性格はもともとサバサバしているほうだが、見てくれまでボーイッシュになったのは思春期を迎えた頃から。
 身長一七〇センチとクラスの女子で一番背が高く、ヘタをすればクラスの男子を見降ろすことも多々あった。小さくてふわふわした女の子たちと違って、男子に女扱いされることもなく、いつのまにかこんな仕上がり。
 カワイイ、とか女らしい、とかは私には似合わない。
 そう思って遠ざけてしまった結果、学生時代と変わらないショートヘアに、パンツスーツが定番になった。

「わかるわかる。なんつーか、喋りやすいっつーか。女の子だけど、男から見ても付き合いやすい感じだもんな」
「おかげで異性扱いされないんですけどね」

 伊吹が少しふてくされたように唇を尖らせると、三輪がクスと小さく笑った。

「いやいや、そんなことないだろ。彼氏いないの? ……あ、やべぇ。これセクハラ?」
「いないですよ。常時募集中なんですけどね」
「ははっ、アピール不足なんじゃない? 本宮さん普通に可愛いじゃん。……あ、これまたセクハラ?」

 言われ慣れない言葉に戸惑いつつも、それを笑って受け流すくらいの大人スキルは伊吹とて身につけている。
 三輪が自分が発した言葉をいちいち気にする様《さま》がなんだか可笑《おか》しい。最近は余程その手のトラブルが多いのだろうか。まぁ、彼に限ってはナイだろうが、職場のみならず今や巷《ちまた》に溢れかえっている問題だ。

「や。大丈夫です。そもそもセクハラって相手によりますから。同じことされても嫌な人は嫌だし、好きな人なら逆に嬉しかったりしますから」
「……まぁな。でもうっかり地雷踏まねーように必死よ、上司側《こっち》も」
「そういった意味では男性側も大変ですよね」

 相槌を打ちながら、ふと頭を掠めた晴太の笑顔をフルフルと追い払う。

「……どした?」
「いや。なんでもないです」

 相手による──。少なくとも伊吹はアレを嫌だとは思っていない。
 
 そもそも、好きになるなと予防線を張ってきたのは向こうだ。
 
 晴太はなぜあんなことをするのだろう?
 晴太がもし、普通の男だったならまだなんとなく説明がつく。それこそ、酔った勢いとか、間がさしたとか。異性を求める本能が根底にある自然の摂理。けれど、晴太はそうではない。だから余計混乱する。

 本当に自覚がないのだろうか? 確かめるのが怖いのは、トモダチと同居人。
 自分にとって心地よい居場所を失ってしまうのが怖いから。
 
 


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