真夜中だけは、別の顔
それから数日。
久しぶりに感じた寝苦しさに目を覚ますと、ほのかに鼻を掠めるアルコールの香りと背中に感じる人肌のぬくもり。
ああ……またか、とその状況に納得して伊吹は再び静かに目を閉じた。
相変わらず、晴太は伊吹の身体を後ろから包み込むようにして静かに息をしている。
何度目かのそれに慣れつつも、やはり意識しはじめると鼓動が早くなってしまうのはいつものことで、伊吹はただ息を殺すように眠ったふりを続ける。
晴太の手のひらはお決まりの位置。ルームウエアの隙間から直に肌に触れるその生々しい温かさを意識せずにはいられない。
時折無意識に動いた晴太の指が、下着のラインに触れたりする。その動きそうで動かない指に、なんともいえない気持ちが込み上げる。
私は、一体何を試されているのだろう?
彼の規則的な寝息を耳元で聞きながら、心底うらめしい気持ちになる。
モゾモゾと首の後ろで彼が動くたび、ゾクリと皮膚が泡立つ。首筋にかかる生温かい息。たったこれだけの刺激で身体の奥が次第に熱を帯びてくる。
「……っ、」
感じている。
好きな男の腕の中にいるということを、身体がちゃんと理解している。
ピク、ほんの少し彼の指先が動いただけで、身体の奥の熱がさらに高まって行く。
バカみたいだ、こんなの。
伊吹に触れているという意識さえないような男の指に、自分がこんなにも翻弄されているだなんて。
「……ん、」
背後で呻く様に響いた細い声。同時に首の後ろに熱い息が掛かる。思わず小さく身をよじると、肩に近い首の付け根のあたりに押し付けられた心もとない柔らかな感触と、濡れたような熱。
──分かる。
目を閉じているからこそ、それ以外の五感が冴えわたる。いま、首に触れたのは晴太の唇だ。
「──ふ、」
思わず小さく漏れた吐息。慌てて両手で口元を覆い、必死でそれを口の中に押し込めた。
もしここで晴太が目覚めてしまったら──きっと晴太は金輪際自分に触れなくなる。
私は──、晴太がこの先自分に触れなくなるのが怖いのだ。