浅葱色が愛した嘘
『遅かったでありんすなぁ。』
部屋に戻れば吉乃が居た。
相変わらず煙管を片手にくつろいでいる。
桔梗は先ほど高杉からもらった煙管を懐から取り出した。
『それは?
どうしたのじゃ?』
『あぁ、さっきの天霧とやらからもらったものだ。』
吉乃の前では、廓言葉ではなく普段通りの口調。
きっとこの二人は周りから見れば
なんとも美しい天女のような女たちだ。
長い艶のある黒髪。
そして、他には見せない嘘偽りない笑顔。
誰もまだ、見たことのない桔梗の笑顔。
『ところで、吉乃。
ちと、紙と筆で貸してくれぬか?』
『あぁ、構わないでありんすよ。
はて。誰かに文でも送るのか?』
『土方さんにな___。
今日の隊務だけで十分な収穫を得られたから、その報告だ。』
桔梗は慣れた手つきで筆を走らせる。
バランスのよい、綺麗な文字。
最後は新撰組で使われている名である(澄朔)と書いて文を閉まった。
『お前は何個も名前があるのだな。』
『色々と事情があるからな。』
桔梗は苦笑いを浮かべた。
正直、めんどくさいのは確かだが全ては復讐のためだ。
『新撰組で偽名を使うのは分かる。
しかし、なぜ天霧様にまで?』
吉乃はあの時、とっさに偽名を使った桔梗に驚きの目を向けていたが、
何かがあると悟り、話を合わせた。
その吉乃の行動に、桔梗は感謝していた。
『私の(桔梗)という名は一部の長州では有名な名だ。
先ほどの宴会は長州の人間で行われたもの。
名前だけで全部がバレてしまうかもしれないからな。』
よし、出来た。そういって
部屋の襖を少しだけ開けると、その間に先ほど書いた文をスッと差し出した。