浅葱色が愛した嘘




『遅かったでありんすなぁ。』




部屋に戻れば吉乃が居た。


相変わらず煙管を片手にくつろいでいる。


桔梗は先ほど高杉からもらった煙管を懐から取り出した。





『それは?
どうしたのじゃ?』





『あぁ、さっきの天霧とやらからもらったものだ。』





吉乃の前では、廓言葉ではなく普段通りの口調。





きっとこの二人は周りから見れば

なんとも美しい天女のような女たちだ。


長い艶のある黒髪。


そして、他には見せない嘘偽りない笑顔。


誰もまだ、見たことのない桔梗の笑顔。




『ところで、吉乃。


ちと、紙と筆で貸してくれぬか?』



『あぁ、構わないでありんすよ。

はて。誰かに文でも送るのか?』





『土方さんにな___。

今日の隊務だけで十分な収穫を得られたから、その報告だ。』





桔梗は慣れた手つきで筆を走らせる。



バランスのよい、綺麗な文字。


最後は新撰組で使われている名である(澄朔)と書いて文を閉まった。





『お前は何個も名前があるのだな。』





『色々と事情があるからな。』



桔梗は苦笑いを浮かべた。

正直、めんどくさいのは確かだが全ては復讐のためだ。






『新撰組で偽名を使うのは分かる。

しかし、なぜ天霧様にまで?』



吉乃はあの時、とっさに偽名を使った桔梗に驚きの目を向けていたが、


何かがあると悟り、話を合わせた。


その吉乃の行動に、桔梗は感謝していた。





『私の(桔梗)という名は一部の長州では有名な名だ。



先ほどの宴会は長州の人間で行われたもの。

名前だけで全部がバレてしまうかもしれないからな。』





よし、出来た。そういって


部屋の襖を少しだけ開けると、その間に先ほど書いた文をスッと差し出した。


< 79 / 263 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop