誓約の成約要件は機密事項です
「帰ります」
「……待ってくれ」
後ろから腕をつかまれ、千帆はドアに額をつけて震えをこらえた。
目を開け続けたせいで溜まっていた涙が、瞬きした拍子に零れてしまった。この顔は、見せられない。
「待ってくれ。今の質問に答える必要があるか」
「いえ、忘れてください。知りたくありません」
「だったら、結婚の条件に恋愛関係は入っていないということでいいな」
「……はい」
寒々としていた背中が、温かくなった。ドアから引き離すように、後ろから涼磨に抱き締められていた。
「嫌悪感は」
脳に響く距離で、ささやかれる。
以前キスされそうになった、西田を思い出した。皆まで思い出す間もなく、嫌悪感が肌を這い登る。
それは、涼磨には感じない。ただ恥ずかしいだけで、逆にもっと触れ合ってみたいという気持ちが湧き上がってくる。
西田を忘れ去り、涼磨の温度を感じると、少し落ち着いた。疲れ果てたのか、このまま身をゆだねていたくなった。
「……ありません」
「ならば、もう少し相性を確かめよう」
何の……と尋ねようとしたときにはもう、無理やり振り向かされた頬に、唇を押しつけられていた。涙の跡が、なくなる。
「婚前交渉は、好まないか」
「……え?」
「君が、僕をどこまで許容できるか知りたい。口にしづらいということは、こういう行為のことを指しているのではないかと思ったんだが」
「……待ってくれ」
後ろから腕をつかまれ、千帆はドアに額をつけて震えをこらえた。
目を開け続けたせいで溜まっていた涙が、瞬きした拍子に零れてしまった。この顔は、見せられない。
「待ってくれ。今の質問に答える必要があるか」
「いえ、忘れてください。知りたくありません」
「だったら、結婚の条件に恋愛関係は入っていないということでいいな」
「……はい」
寒々としていた背中が、温かくなった。ドアから引き離すように、後ろから涼磨に抱き締められていた。
「嫌悪感は」
脳に響く距離で、ささやかれる。
以前キスされそうになった、西田を思い出した。皆まで思い出す間もなく、嫌悪感が肌を這い登る。
それは、涼磨には感じない。ただ恥ずかしいだけで、逆にもっと触れ合ってみたいという気持ちが湧き上がってくる。
西田を忘れ去り、涼磨の温度を感じると、少し落ち着いた。疲れ果てたのか、このまま身をゆだねていたくなった。
「……ありません」
「ならば、もう少し相性を確かめよう」
何の……と尋ねようとしたときにはもう、無理やり振り向かされた頬に、唇を押しつけられていた。涙の跡が、なくなる。
「婚前交渉は、好まないか」
「……え?」
「君が、僕をどこまで許容できるか知りたい。口にしづらいということは、こういう行為のことを指しているのではないかと思ったんだが」