誓約の成約要件は機密事項です
呆然として力の抜けた千帆をひっくり返し、涼磨はその腕の中に千帆をすっぽりと収めた。額を顎で押さえつけられ、顔を上げることもできない。

ドキドキと温度を上げていく体に反し、頭は徐々に冷えていく。涼磨は、あくまでも条件の話しかない。結婚を、ただの契約としか考えていないのだ。

でも、自分もそうだった。自分が、初めに言いだしたことだった。

「……そういうことではなかったんですが」

「必要性は感じないか」

「……多少は必要かもしれません」

「必要だろう。君も、夫との間に子どもを持ちたいなら」

……子ども。

結婚するなら、子どもがほしいなら、夫となる人と、今よりもっと親密な行為をしなくてはならない。夫となる……誰か、涼磨以外の人と。

――それならば。

千帆は、そっと涼磨の胸を押した。

――それならば、最初にするのは、この人がいい。

涼磨は、じっと千帆の答えを待っていた。

「はい……確かめさせてください」

答えた瞬間、涼磨は瞳の奥を覗き込むように視線を強めた。

――あなたがいい。

そう胸の奥で答えた瞬間、唇がふさがれた。
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