誓約の成約要件は機密事項です
初めてのキスは熱くて、苦しくて……優しくて。

――やさしくしないで。

ベッドに連れて行かれ、体中に口づけを受けながら、千帆の心はずっとそう叫んでいた。どうか、どうか。やさしくしないで――。

そうでなければ、想いがあふれてしまう。

肌と肌を重ね合わせる行為が、こんなにも生々しく野生的で、無防備なことなど、千帆は知らなかった。

途中から、千帆はずっと泣いていた。あまりにも苦しくて。苦しくて苦しくて、そうしないと何を口走るか分からなかった。

「嫌か? 痛むのか? もうやめるから、どうか泣き止んでくれ」

涼磨は、ずっと千帆の心配をしてくれていた。

その手は、口は……体も言葉もどんどん優しくなるばかりで、千帆は益々愚図る子どものように泣き腫らした。

「やめないでください……お願いします……やめないで」

困惑する涼磨に必死だがりつく。涼磨は、子どもにあやすように千帆を何度も抱きしめた。

「……分かったから。大丈夫だから、もう泣くな……」

今度はほっとして、また涙があふれた。

涼磨は、濡れそぼった頬を何度も撫で、頬をすり寄せ、キスをした。

口を開くのが怖くて、千帆も触れるだけの口づけを落とした。

涼磨は、千帆の届く範囲にその頬を頭を首を置いてくれ、千帆はずっとどこかに唇を押し付けることで、震える声帯を押さえ込んだ。

――すき。すきです。涼磨さんがすき……。

抑圧された声とは裏腹に、心は枯れるほどに叫んでいた。




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