今夜、お別れします。
「迷惑、だった?」
「え、いえ。そういうわけじゃなくて……私にはお洒落なお店は、分不相応というか……」
「どういう店ならいいの?」
「いえ、だから、資料のお礼はもう十分ですから……」
「は?資料のお礼って何?まさか、あの時からずっと俺はお礼のためだけに誘っていると思われてたわけ?」
彼の憤慨した様子に言葉をなくした。
だって、それ以外で彼が私を誘う理由はない。
彼は営業部のホープで、彼の隣に立つべき女性は他にいくらでもいる。
私のように地味で取り柄のない女じゃなくて、綺麗で愛想もよくて……そんな女性が彼の隣にいる事がふさわしい。
「呆れた。……てか、羽山さんって自分のこと卑下し過ぎ。君の仕事はとても丁寧だし、気遣いもできる。素敵な女性だと思う。最近気づいたけど、いつかの栄養ドリンクとキャンディも羽山さんでしょ?ほら、それ……」
桐谷が指差した先、デスクの片隅に置かれていたのは、ずっと昔から気に入って買っている栄養ドリンクと、キャンディの袋だった。
「あの栄養ドリンクも、仕事の資料づくりも、俺本当に嬉しかったんだ。がむしゃらに頑張ってきて、立ち止まる事も頼ることも忘れて、疲れ切ってた俺にとって、最高の癒しだった」
桐谷がそんな風に思ってくれていたなんて知らなくて、喜んでくれていたと知って涙が出るくらい嬉しかった。