今夜、お別れします。
「わ、私は、桐谷に好きだと言ってもらえる資格……ないっ」
ぶわっと浮かんだ涙で、視界が歪む。
泣くのは卑怯だと、必死で溜まった涙をこぼすまいと目に力を込めた。
「……」
「た、田丸さんと……キ、」
キスしたと、正直に告白するつもりだった。
桐谷は私の為に必死に唇を守ってくれたのに、私はあっさりとそれを許してしまった。
汚いと、最悪だと、罵られても仕方ないことをした。
けれど桐谷は最後まで言わせてくれなかった。
桐谷の大きな掌が私の口を覆う。
「辛くても、ちゃんと見てたから……だから分かってる」
「……?」
「田丸さんのこと突き飛ばしてたよな。そのあと何度も何度も唇拭ってた。……唇切れたんじゃね?痛かったろう?」
私の口を覆っていた桐谷の手が離れて、そして唇の輪郭をなぞるように、指で優しく触れてくれた。
「萌奈だって、ずっと誤解して苦しかったろう?……だから、いい。萌奈が悔いてる事、全部許す」
堪えていた涙がとうとう溢れ出した。
頬を伝って、桐谷の手を伝って流れていくのが見えた。
桐谷はどうしてこんなにも優しいんだろう?
どうしてこんな風に許すって言えるんだろう?
「どう……して……」
「どうして許せるのかって聞きたい?」
私の言葉をすくい取って口にした桐谷に頷く。