今夜、お別れします。
「今の声って、桐谷さんだよね」
ホラ、大きな声で怒鳴るから田丸さんにバレたじゃない。
「そう、ですね」
「羽山さん、桐谷さんと付き合ってるの?」
「……」
バレるようなことをしでかしたのは、桐谷の方なのに、こんな状況になってまで桐谷との約束を守る私はなんなんだろうか?
「……内緒で付き合ってんの?」
言葉にしないことで肯定と取られてしまったようだ。
田丸さんは意外そうな顔をして私をジッと見た。
意外、なんだろうな。
私みたいな地味女が、我が社の営業部ホープの桐谷と付き合っているなんて。
「今日、俺の誘いにのってくれたのにも何かわけがありそうだね」
田丸さんは少し考える様子を見せた後、なんだか楽しそうに笑った。
得意先の会社の人といっても、彼は同じ大学の先輩で気安く話せる相手でもあった。
たまたま得意先に届け物をした時に再会して、それ以来何度か飲みに誘われたことがあったけれど、私は付き合っている彼に操を立ててプライベートで会うことはなかった。
昔から、察しがいい人ではあったけど、今の電話のやりとりだけで、色々とバレたのかもしれないと思うと、ほんの少し今日の誘いにのったことを後悔したくなった。
私はただ、ちょっと仕返しがしたかっただけなのだ。