今夜、お別れします。
「それで、羽山さんはどうしたいのかな?」
そっと周囲を見回して、桐谷の気配を伺っていた私に掛けられた声はとても穏やかな響きだった。
「え?」
どうしたい?
それは、ただ桐谷に見せつけたかっただけ。
桐谷が私を傷つけたように、私も桐谷に同じ傷を負わせたかっただけ。
……なんて、同じ傷になんてなるはずない。
私が受けた傷は、彼には想像すらできないだろう。
「秘密で社内恋愛している羽山さんは、今まで彼に操を立てて、俺からの誘いを断っていたわけでしょう?」
「……」
「彼にヤキモチでも妬かせたかった?もしかして、俺は利用された?」
怪しい雲行きに息をのんだ。
この人は、私の心をどこまで読んだんだろう。
利用したのかと言われたら否定できないけれど、田丸さんにそんな風に言われたら、私は彼まで傷つけてしまったということだろうか?
ただ、食事をしただけだ。
誰だって、そのくらいしているじゃないか。恋人がいても、夫がいても。
桐谷みたいに同僚相手と抱き合ってキスしたわけじゃない。
相手は、後輩の千歌(ちか)ちゃんだった。
ふわふわしたイメージの可愛い女の子。
彼女が桐谷に好意を持っていることも、それを桐谷自身も気づいていることも知ってた。