《短編》ガラクタ。
「もう良いよ!」


「…マイ。」


「シゲちゃんのそういうとこ嫌なんだよ!
言いたいことあるならハッキリ言えよ!」


捲くし立てるように声を荒げてみれば、ひとり肩で息をしている自分自身に虚しさが襲った。


シゲちゃんは困るといつも黙ってしまうし、それに怒るあたしに彼は、ごめんと呟くのみなのだから。



「本気でもう良い。」


「…そん、な…」


「別れよう。
はい、終わり。」


吐き捨てるように言って立ち上がったその刹那、“待って!”と言った彼はあたしの腕を掴んで静止した。


瞬間に思い出したのは初めて会った日のアラタの言動で、無意識のうちにそれを振り払ってみれば、宙を舞うのは乾いた音。


手を振り払われたシゲちゃんは驚いたように目を丸くしていて、戸惑ったような瞳が投げられた。



「触んないでよ!」


本当に何もかもが嫌になり、再び声を荒げたその瞬間、背中越しのドアに押し当てられるようにして唇を奪われた。


多分、強引に力で捩じ伏せようとするシゲちゃんの顔なんて初めてで、抵抗をやめたあたしに彼は、弾かれたように“ごめん”と泣きそうな顔になることのみ。


別に怖かったとか嬉しかったとかそんなんじゃんじゃなく、不意にアラタと最後に別れたときのドア越しのキスを思い出し、ひどく惨めな気分にさせられたから、ってだけ。


こんな会話をしててもシゲちゃんがあたしの頭の中を占める割合なんてほとんどなくて、自分ひとりあんなヤツに焦がれている現実が、ひどく無様で仕方がないのだ。



「とりあえず、今日は帰る。」


「…ごめん、怒らないで…」


「別に、シゲちゃんに怒ってるわけじゃないし。
あたしも言いすぎたし、冷静になったらまた電話する。」


そんな言葉にまるで光を見たように安堵の色を浮かべたシゲちゃんから、目を逸らすことしか出来なかった。


そしてひとり、あたしは彼の部屋を後にする。


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