《短編》ガラクタ。
街のネオンの色は嫌に寒々しくて、うつむき加減に足早な人の波は、あたしのポッカリと開いてしまった心の穴を通り過ぎる。


シゲちゃんじゃ、埋められない。


携帯もあたしもまるでガラクタそのもので、アラタみたいな馬鹿以外、それをわかってくれるヤツも居ない。


鳳凰と一対のアイツじゃなきゃ、もう埋められないんだから、嫌になる。


ただ街路樹に体を預けて佇んでいるあたしのポケットの中で電子音が鳴り響いていたけど、面倒になって無視を決め込んだ。


それでも鳴り止むことはなく、仕方なく持ち上げてみれば、“アラタ”と表示されていたそれに、驚くように目を見開いた。



『遅ぇよ、出るの。』


ゆっくりと通話ボタンを押すと、まるでさっきも会っていたような感じの声色に、無意識のうちに唇を噛み締めてしまう。


散々人をこんな風にしておいて、悪びれる様子はおろか、嘘でも謝罪の言葉すらないのだから。



『お前、今どこ?』


「…迷子になった。」


『心が?
それとも、マジで言ってる?』


耳に触れた言葉に、一体何を言われているのかがわからなかった。


心配して欲しくて並べた台詞だったけど、本当に心の置き場がない自分に気付かされてしまったのだから。



「…さっさと迎えに来なさいよ。」


『いや、お前迷子なんじゃねぇの?』


「並木通りのファミレスの前だって言ってんじゃん!」


『…言ってねぇじゃん。』


“ホント困ったヤツだよ”と付け加えられ、あたしは言いたいことだけを言って通話を遮断した。


どうしようもなくて、虚しさが支配する体も心も丸めてしまうように、あたしはその場で膝を抱えた。


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