《短編》ガラクタ。
とにかく楽しくて仕方がなくて、あたしは広いアトリエの散策を開始した。


別に何があるってわけでもないし、画材道具を見ても何とも思わなかったけど、でも、戸棚の中には袋詰めにされたプルタブの山が無造作に置かれていて、それには笑ってしまった。


どうやら彼の収集癖は、本当だったらしい。



「あたしもアンタのコレクションのひとつ?」


「一番のお気に入りだ。」


寒いとか眠いとか小腹が空いたとか、今のあたしにはそんな生きる上で大切なものを欲する気持ちは皆無だった。


そんなもので生にしがみ付くくらいなら、鳳凰を背負ったアラタと、そしてこの絵の前でセックスでもして死んだ方が幸せだとさえ思えるから。


戸棚の前に立ってそんなことを思っているあたしの思考でも読んでいるかのように、アラタは苦笑いのままにキスを落としてきた。


欲情の文字通り、あたしは全部が欲しくなって、だけどもアラタも同じだったのだろう、キスのひとつでスイッチなんて簡単に入る。


暖房器具なんてもちろんない場所で、吐息は白く立ち昇り、甘い声を漏らしたあたしの口を塞ぐようにして彼は、妖艶な瞳を投げてきた。


結局そのまま戸棚に手をついた状態で立ちバックして、本当に二人してどうしようもないと思うんだけど。







「お前の背中ってさ、不意にラクガキしたくなる。」


「良いね、あたしも刺青でも入れようかな。」


「やめとけよ、汚すの。」


「…何で?」


「確かに女の方が綺麗に入るらしいけど、でもダメ。
お前が痛がってキレたら手に負えねぇから。」


多分アラタは、そんな風に言って鳳凰を取られそうで怖いのだと思う。


そして、あたしが彼と同じように鳳凰を背負ったとき、あたしの中でアラタの価値がなくなりそうで、きっとそれも嫌なのだろう。


クスリと笑えば彼は、誤魔化すように肩をすくめ、そして行為の終わりのようにキスを落としてくれた。


< 51 / 77 >

この作品をシェア

pagetop