《短編》ガラクタ。
雨の中で傘を差して、言いたいことを整理していた。


騙されるかよとか、レベル低いんだよとか、サイレンの音まで準備して用意周到だなとか。


だってそんなことを考えてなきゃ、まるで冷静で居られないのだから。


顔を上げてみれば目の前には一度だけ見たことのあるコージくんの車が止まり、あたしは眉を寄せるようにしてそれへと乗り込んだ。



「今度は何のゲーム?」


「…ゲームなんかじゃないんすよっ…」


まるで絞り出すように言った彼は、そのままハンドルへと顔をうずめ、あたしの乾いた笑い顔だけが引き攣っていく。


ただ車内は雨音だけが支配していて、これが演技だとするならアカデミー賞ものだと、どこか遠い意識の中でそんなことを思った。



「…ベランダから、飛び降りて…前の時だって死のうとしてたしっ…」


「何、言ってんの?」


「…すげぇ血が出てて…意識なくて…」


早く、なんちゃって、とかってのを期待してたのに、彼は涙を堪えるように唇を噛み締めたのだ。


嘘だって思ってるはずなのに心臓はすごい早さで打ち鳴らしていて、あたしの不安ばかりを煽っていく。


まるで何なのかわかんなくて、そんなあたしを乗せ、車は走り出した。


それはアラタの家じゃない方向で、アトリエでも、もちろんシゲちゃんの家の方向でもなかった。



「…あの人、才能あるからちっちゃい頃から注目されてて。
親にも過剰な期待掛けられて、前も何かの賞取った後に風邪薬とか睡眠薬とか大量に飲んで…」


確かに、アラタの部屋には絆創膏程度しかなかった。


不意に昨日、俺が死んだらどうするかと問われた台詞を思い出し、また背筋にゾッとしたものを感じてしまう。


もしも、あたしの所為だったらと、そんなことを思ってしまうのだ。



「…アイツ今、どうなってんの…?」


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