Perverse
私の拒否に柴垣くんは混乱しているのか、暫く何の反応も見せなかった。



「あー…話があるんだよ。昨日の事、ちゃんとしとかねぇと…」



「大丈夫。必要ないよ」



完璧に作り上げた笑顔の私とは正反対に、柴垣くんは怒りと混乱の表情を浮かべる。



けれど私にはそれが何を意味する表情かは見て取れない。



「何だって?」



そう問いかける柴垣くんに向かって、私はもう一度、



「必要ないから…」



と呟いた。



「必要ないって…どういう意味だよ」



「………」



意味なんて説明できるわけない。



きっと私の気持ち無くして語れないから。



気まずくなりたくないの。



面倒に思われたくないの。



ましてやセフレになんて、絶対になりたくないの。



いったいどう説明すればいいのか、自分でも上手く言葉がまとまらない。



「昨日はごめんなさい。酷い酔い方だったと反省してる…」



「は…?」



「できれば…リセットさせて…」



「……」



『忘れてほしい』なんて言葉、やっぱり私の口からは嘘でも言えなくて。



希望も託して『リセット』という言葉を選んだ。



「……そうかよ」



低い低い声に顔を上げると、柴垣くんは後ろを向いて、



「荷物取ってくる。悪いけど、ちょっと待ってて」



と言って部屋の中に入っていった。
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