Perverse
「楠原と…水田も?」



いつもなら絶対にこんな場所で会うはずもない二人に、柴垣くんは驚いているみたいだ。



でも…呼ばれなかった自分の名前が酷く滑稽に思えた。



「偶然ね。今帰りなの?」



「ああ。今日は早くケリついたからな。」



「そうなんだ?私達は結菜の家で宅飲みよ」



「へぇ…」



「柴垣くんも来る?」



とんでもない楓の提案に、柴垣くんは笑って「遠慮しとく」と交わした。



「結菜さんっ!すみません、私、重たいほう持たせちゃって。変わりましょうか?」



楓と柴垣くんの会話を他所に、いきなり沙耶ちゃんが私に問いかけてくる。



「え?」



ついさっき沙耶ちゃんからこちらに変えられたのに、その意図が解らずキョトンとしていると。



横からガサッと音を立てて袋を引っ張られた。



沙耶ちゃんじゃないその手に驚いて顔を上げる。



「貸せ。重いんだろ?」



ぶっきらぼうに柴垣くんがそう言った。



それだけで、その一言だけで、もう涙が溢れてしまう。



その事に気付かれてしまったのか、柴垣くんが目を見開いたけれど、私は咄嗟に俯いて顔を隠した。



「ありがとう…」



私がそう言うと、柴垣くんは「ついでだからな」と言って歩きだした。
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