Perverse
出勤準備が整うまでに、いったいどれだけキスを交わしただろう。



部屋を出る直前に口紅を塗りなおすために鏡に映した私の唇は、口紅はおろかリップさえも残っていなかった。



塗りたての口紅をなじませてティッシュで唇を押さえると、瞬時に柴垣くんの手が私の手を押さえ、唇に張り付いたままのティッシュの上からキスをした。



「もうっ。なにしてるの」



ティッシュをはずして私が軽くむくれると。



「ちょうどいい感じに馴染んだだろ?」



柴垣くんはそう言って口角を上げた。



女の私がこんなことを思うなんて、ふしだらかもしれないけれど。



仕事じゃなかったら……。



薄いティッシュ一枚ももどかしいなんて、すっかり毒されている。



鍵をかけてマンションを出ると、すぐ目の前に私の家が見えるというのに。



ここから出勤できるなんて嬉しすぎる。



いつもと同じ通いなれた道のりも、今日は全然違って見えるのだから不思議だ。



それはきっと……。



どちらからともなく繋いだ手の温もりがあるからかもしれない。



柴垣くんも同じように思ってくれていたらいいのに。



いや、彼のことだ。



きっと同じ思いであるに違いない。



私は繋いだ手に力を込めて、彼に『大好き』を伝えた。
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