Perverse
「楓達は大丈夫だった?」



「ああ。二人でタクシーに乗って帰ったよ。楠原んち経由で帰るから心配するなって言ってたぞ」



キッチンに回ってきながら柴垣くんはそう言った。



「よかった……」



見送ってくれてありがとう、と伝えようとしたけれど、柴垣くんは私を背後からギュッと抱きしめた。



「柴垣くん……どうしたの?」



彼が急に甘えモードになるのはよくあることで、今さら不思議でも何でもないけれど。



下ろしている髪をサイドによけて首筋に落とすキスが、くすぐったくて仕方がない。



「ねぇ。まだ洗い物の途中だから……」



肩をすくめて身を捩るけれど、柴垣くんは一向に首筋のキスをやめない。



「っや……」



それどころか、私が最も弱い耳裏に、ゆっくりと舌を這わせてきた。



「柴垣くんってば……」



泡の付いた手を少し上げて洗い物中だと示すと、柴垣くんは蛇口をひねって水を出し、私の手に自分の手を重ねて泡を流し始めた。



「まだグラスが残ってる」



なんの抵抗もせず、それでも口でだけは不満げに言ってみるけれど。



「片付けは後でいいだろ。俺も手伝うから」



柴垣くんはそう言ってシンクの下のタオルで、私の手を丁寧に拭った。



「でも……」



今までも何度かこういうことがあったけれど、その日のうちに片付いた試しがない。



「結菜」



振り向かされて、優しく正面から抱きしめられると、もう何も言う気がおきなくなってしまった。



「行こう」



横抱きに抱きかかえられて向かった先は。



言わずと知れたベッドルームだった。
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