私の遠回り~会えなかった時間~
「男の人…?」
するとその美容師さんが顔を上げた。
「女に見える?」
黒い短髪の髪先を上手に遊ばせ、黒縁のめがねをかけて頬杖をついている。
それはどこをどう見たって男性の姿。
ちょっと気難しそうな雰囲気に見えるのは、気のせいだろうか。
「あれ、知紗ちゃんには言ってなかったかしら?姉の子で私の甥っ子、山瀬彬(やませあき)って言うの。これからよろしくね。」
そういえば加代さんからは美容師さんの性別なんて聞いていなかった。
だから私は勝手に女の人だと思い込んでいたんだ。
私の驚きの顔を見て、美容師さんはスッと目を細めた。
「何か不都合でもある?」
私は思わず顔を横に振った。
今まで加代さんにずっと髪を切って来てもらって来たから、男の人に髪を切ってもらうなんて想像もしていなかった。