私の遠回り~会えなかった時間~
「ふ~ん。」
美容師さんは雑誌を閉じると、私の前に歩いてきた。
そして真正面で足を止めると、私の髪を手ですくった。
その仕草と、その距離の近さに私はどきりとする。
「じゃあ、彬、頼むわね。私は知紗ちゃんの所に行ってくるから。」
「えっ~?」
思わず出た私の声に、美容師さんの視線が痛い。
「知紗ちゃんのお母さんにこないだの春巻の作り方を教える約束をしているの。」
加代さんはウインクをした。
美容師さんはふぅ~と息を吐いた。
それから美容師さんは加代さんの方を見た。
「分かったよ。ここは俺に任せてくれたらいいから。」
加代さんはうなずくと、さっさと出て行ってしまった。