私の遠回り~会えなかった時間~
会社所属最後の仕事。

そんな時こそ久保さんにメイクをしてもらいたかった。

この先の仕事は白紙だ。

会社から独立をするという発表があってから、かなりの仕事の依頼が木本さんに直接来るようになったらしい。

しかし木本さんはそれを上手に断ってくれた。

この仕事が終わったら私は彬の元へ戻る、そう決めていたから。

「じゃあ、支度が出来たって声を掛けてくるね。」

久保さんはあっけらかんと言う。

まるで最後の仕事を私としたくないかのように。

ちょっと納得出来ない私は鏡の前で、自分の拗ねた表情を見た。

「知紗。」

私は一瞬ビクンと反応する。

忘れるわけがない、この声を。

鏡の中の私の後ろに映る懐かしい姿。


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