私の遠回り~会えなかった時間~
「悪いようにはしないから、任せてくれない?」

私は声を詰まらす。

彬さんは私の頭を鏡に向けると、真剣な顔つきでまた髪を切り始める。

その様子に私は押し黙ってしまった。

こんなに髪を切るなら一言確認して欲しかった。

動揺している私を全く気に掛けず、彬さんの手は手際よく動いている。

私は鏡を見ている事が出来ずに、視線を落とした。

あ~あ、どうしよう、私に新しい髪形の手入れが出来るだろうか。

朝、ちゃんと髪はまとまってくれるだろうか。

「…おい。」

どれだけの時間が経っていたんだろう。

「知紗、顔をもう少し上げろ。」

いつの間にか私の顔を覗き込んでいる彬さん。

私が驚いた表情をしたせいか、彬さんは余裕の笑顔を見せる。

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