君の日々に、そっと触れたい。
「ここやで」
手馴れた様子の夕実ちゃんに促され、ドアノブを捻る。
緑とか紺を基調とした、男の子らしいけど清潔感もある部屋だ。壁には家族や友達との思い出の写真がたくさん。本棚にはびっしり本があって、日本語じゃない本も混じっていた。
そんな部屋の一番奥の窓際のベッドで、李紅は目を閉じていた。
「……………李紅」
名前を呼んで近付いても、目を覚まさない。陶器みたいに白い頬はいつもより少し赤くて、熱があるのだとすぐに分かった。
汗ばんで額に張り付いた前髪をそっと払ってあげると、李紅はゆっくりと目を開けた。
「李紅、大丈夫…?」
「………え……桜…?なん、で……。…っ!」
言葉の途中で李紅はと突然顔を顰め、跳ねるように上体を起こしたと同時に、激しく咳き込み始めた。
「李紅…!」
「りぃちゃん!大丈夫、大丈夫や………しんどいなぁ…」
すかさず夕実ちゃんがベッドに駆け寄り、李紅の背中を慣れた手つきでさする。
しばらくしてようやく落ち着き、夕実ちゃんに支えられながら李紅はまた横になった。
「桜………どうしたの?」
顔だけ私に向けてそう尋ねる李紅。
「こっちの台詞。全然連絡ないから心配して来たんだよ」
「あ………ごめん。全然携帯見てなかった……」
そう申し訳なさそうに笑う李紅は、たった三日ぶりだと言うのに、少し痩せてしまったように見えた。
「……いいよ。それどころじゃなかったんでしょ……?」
きっとちゃんとご飯が食べられていないのだろうということは、枕元に置かれたビニー袋の入った洗面器の存在だけでも、容易に想像ができた。
「はは……まぁね。でも午前中に病院で点滴して貰ってきたから、だいぶ楽になったんだ。もう明日にはピンピンしてるよ」
「今日まだこんな状態なのに?」
「うん。いつもそうだもん」
───いつも、って……………。
まるでよくあることのような言い方。
「だから桜。明日はいつもの場所で俺を待っててよ」
「え……でも」
「大丈夫だから。一分一秒でも無駄にしたくないんだ」
「それはそうかもしれないけど……」
私と出会ってから今までにも、こんなことが頻繁にあっりしたのだろうか。
そしてその度に李紅は、翌日には何事も無かったような顔をして私と会っていたのだろうか。
…………そんなの、辛くないはずがない。