君の日々に、そっと触れたい。


「………ごめん、それでも傍に居て欲しい」


そう言って李紅は、私の肩に頭を埋めた。


李紅に、好きな人に、傍に居てくれと言って貰えているのに。

手放しに喜べないのは、顔の見えない李紅が、あんまりにも弱々しく見えたから。


「生きて、意外のお願いならなんでも叶えるからさ…」


縋るような弱い声だ。らしくもない。


「………ねぇ、どうして私なの?」


───ずっと、不思議に思ってた。


「私じゃなくてもできるじゃん。李紅のノートを埋めるなんて」


李紅のあのノートに書かれていたのは、李紅にとっては特別なことでも、健常な人からしたら誰でも叶えられるような可愛い願い。

きっと私じゃなくてもよかった。



「…………桜はあの日、ただの気まぐれで死ぬことより俺を選んだんだろ?」

「…………うん」


確かにあの日李紅の手をとったのは、本当にただの気まぐれだった。失うものなんてどうせ無いからと、半ばヤケクソで。


「………多分ね、俺もそうだった。ただ誰かを失うところを見たくなくて。桜をあの冷たい海から救い出せるなら、口実なんてなんでも良かったんだ」


そう言って李紅は、自嘲するように肩を竦めた。

そうだ、あの時の李紅は確かに、あの手この手で私を陸に戻らせようとしていた。その時の挑発的な言葉が気に食わなくて、私は李紅のことが鬱陶しくて仕方がなかったんだっけ。

…………それがいつからだろう。

死なないで欲しい、と。
ずっと傍にいて欲しい、と思うようになってしまったのは。

そして今私は、李紅も同じ気持ちであれと望んでいる。


「今は…………?」

「………今は、桜じゃなきゃ嫌だって思ってるよ」

「……どうして?」

「…………」


李紅は黙り込んでしまった。

考え込んでるような感じではなくて、もう喉まで出かかった言葉を飲み込んだように口を閉じてまた目を逸らした。

その飲み込んだ言葉が、もしも私が望む答えなら、どうか聞かせて欲しいのに。

私は我慢できずに口を開く。



「私は、私はね………李紅……」



李紅のことが、好きだよ。



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