君の日々に、そっと触れたい。
「……怖いのも、辛いのも、全部李紅がくれたものだから、全部愛しい」
出会えたことを奇跡だと、心から思う。
生まれてきてよかったとか、そんな大層なことは言えないけれど、一つだけ自信を持って言える。
「私の人生はボロボロで、嫌なことばっかりだったけど、一つだけ間違ってなかったのは、李紅と出会えたことだよ」
ねえ、生まれてきてくれてありがとう。
生きていてくれてありがとう。
「…私と、出会ってくれてありがとう」
きゅっ、と包み込んだ華奢な肩が私の腕の中で震えた。
力強く掴まれていたはずの両腕は、いつの間にか李紅を抱きしめ、李紅はそれに凭れたままもう一人では身体を支えられそうになかった。
まるで…出会って、愛して、縋った。今日までの私たちを体現してるみたいだ。
李紅は多分、泣いていた。
一度だって見せたことのない泣き顔を、私の胸に埋めて、相変わらず隠してしまっているけど。その肩は嗚咽に揺れていた。
誰よりも強かに笑う彼は、本当は誰よりも脆いのかもしれない。
「…………さくら」
涙声混じりの舌っ足らずな声で、うわ言のように私の名を呼んだ。
「……ごめん、ありがとう」
李紅は珍しく、笑わなかった。
でもきっと明日はもう、いつもの李紅だ。小生意気で、からかい上手な笑顔を浮かべて、いつもみたいに。
それはきっと仕方ない。強がらないと、強くなれない時だってきっとある。
………だからせめて、今だけは。
私に弱みを見せてほしい。
私の手で君を笑顔にしたい。
今まで李紅が私にそうしてくれたように、今度は私が。
その為に必要な強さは、李紅からたくさんもらったはずだ。
「強く、生きていこう。二人で」