君の日々に、そっと触れたい。


『りりりり李紅か?!!』


「うわ、びっくりした」


あまりの大声に、思わずスマホを落としそうになる。


『え、李紅?本人だよな?お、お母さんとかじゃないですよね』

「け、賢太郎落ち着いて?大丈夫?」

『いや、大丈夫?はこっちのセリフだわ!』

「あ…あはは、そうだねごめん」

つい1日ぶりなのに、酷く久しぶりに会話をしたような気がする。思わず笑みが零れた。

『………で、お前どうなん?身体』

「うーん……あんまり?」

『そっか……やっぱそのまま暫く入院?』

「うん、てか多分もう学校行けないと思う……」

『……………そっか』


小さな沈黙。

賢太郎は何を思ってるんだろう。


「賢太郎」

『ん?どうした……?』

「…花火大会、台無しにしてごめんな」

『馬鹿、んなのはどーでもいいんだよ』

「んー………でも、やっぱり行きたかったよ」


───だって、きっとあれが最後の機会だったから。

少しの間だったけど、学校で四人で過ごした日々は本当に楽しかったから。

もう戻れないけど。


『…………なあ、李紅』

「なに?」

『そろそろ太陽と康平にも、話そうぜ。お前の……その……』

「余命のこと?」

『…………そ』

「…………」


いつまでも、黙ってる訳にはいかないと思っていた。だけどいつも楽しい時間をくれるあの二人に、悲しい顔をさせたくなくて。

でも、どれだけ逃げてもやっぱり。


「………話す、よ」


大切な友達だから、隠し事は出来ない。


『……そっか。そしたら今日、三人で見舞いに行っていいか?』

「来てくれるの?」

『当然だろ。親友だぞ俺らは、お前の!』

「……………うん」


心が温かくなる。

倒れたことで大きくなってしまった、普通と同じように生きていけない自分への劣等感が、少しだけ和らいだ気がした。




『…私と、出会ってくれてありがとう』




昨日の桜の言葉を思い出す。

抱きしめてくれた腕の温もりが、今もここにある気がした。


翌日、俺は太陽と康平に全てを打ち明けた。

上手く文章がまとまらなくて、しどろもどろだったけれど、今話せることは洗いざらい白状した。

太陽は声を上げて泣いた。まだ腫れの引かない目が、さらに腫れてしまいそうだった。

康平も泣いていた。そんな気はしていた、と言いながらも、静かに目頭を抑えて泣いていた。

だけど二人とも、俺が困った顔をすれば、へたくそに笑顔をつくって返してくれた。




……………大切にしよう。


心から想ってくれる人がいるなら。

自分のことも、残り少ない時間も。


大事に、抱えて生きていこう。




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