君の日々に、そっと触れたい。

「それが叶わない願いでも」

【桜side】


李紅が倒れてから、二週間が過ぎた。


李紅の体調は良くなってるとは言えず、あまりに酷い頭痛に、薬に頼ることも増えてきた。

食欲もほとんどなくて、吐くものなんてないのに一日中吐き気に悩まされていた。

それでも術後の歩行訓練を休むことはせず、戻してしまいながらも必死で自分で食事を取ろうとする李紅の姿に、圧倒された。


9月になって私は学校が始まったけれど、バイトのない放課後は必ず李紅に会いに行った。

李紅の病室にはたくさんの人が出入りする。お母さんやお父さん、私やゆうちゃん、小児病棟の子供たち。それから最近よく会うのが、李紅の中学の友達。賢太郎くんに太陽くんに康平くんと言うらしい。

今日も放課後李紅の病室に行くと、その3人と鉢合わせた。


「あ、桜さんじゃないすか。こんち…むごっ」

私を見るなり大きな声で元気に挨拶してくれた太陽くんの口を、賢太郎くんが慌てて塞ぐ。

「ばっかお前、静かにしろよ!」

「そうゆう賢太郎もうるさいけどな」

どうやら李紅は今、眠っているようだ。


「いいの?起こさなくて。来てたなら起こしてよ!、って李紅にどやされるよ」

李紅はいつもそうだ。誰かが自分にお見舞いに来ている時はできるだけ起きていたいらしく、来た時から寝ていたからと言って起こさないと、後で怒るのだ。


「いやでもこいつ夜寝れてないみたいなんで、起こせないっすよ」


賢太郎くんが気まずそうにそう言った。

聞くところによると、このところ李紅は、夜は咳が酷くて朝は頭が痛く、なかなか寝付けていないと、と自分から賢太郎くんたちに零したらしい。



………なんか、ちょっと悔しい。

李紅は病気について私に隠し事をしたりはしないけれど、自分からも何も言ってはくれない。

今どこが辛いとか、どうして欲しいとか。


「……そっか。私は頼りないのかな」


そう落ち込みそうになっていると、康平くんが それは違います、と強く首を振った。


「好きな人の前ではカッコつけたいんですよ。李紅だって男ですから」


好きな人……。


「李紅は絶対言わないでしょうけど」

「…………言わないよ」


李紅はきっと最期まで、私を好きだとは言わない。

それが私にとって苦であるかと言えば全くそんなことはない。

だって足りない愛は、全部李紅がくれるから。

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