御曹司と契約結婚~俺様プレジデントの溺愛に逆らえません~
(なるほど、な……)

どうやら生粋のおひとよしらしい。誰の目もないところでの親切、そして自己犠牲、打算ではない、本物の優しさだ。

その上、不幸なことに赤信号で立ち往生を食らっている。
車もいない、通行人もいない、またしても誰も見ていないというのに律儀に交通ルールを守って……。

体は強い雨に晒されて、もう春といえど冷えるだろう。
彼女が自身の肩を抱きながら、ぶるっと身震いをした。

今どき珍しい、バカがつくくらいまっすぐなひとだ。

「……っくく」

思わず、鷹凪は吹き出していた。
もう見ていられない、その不器用な女性を傘に入れてやりたい衝動にかられる。

「律儀なんだな」

そう声をかけ彼女を傘の片側に入れると、大きくてくりんとした亜麻色の瞳が鷹凪を見つめて、パチパチと瞬いた。

人のよさそうな、いじらしい眼をした女性だ。
その瞳を占領してしまいたくなるのは、男なのだから仕方のない衝動だろう。

「信号。俺ならきっと渡っちゃうな」

彼女の瞳が困惑に揺れた。鷹凪のひと言ひと言に従順に反応する。

(純粋で、見ていて飽きないな)

なにより、彼女の根底にある、ブレない優しさが気に入った。

この先、鷹凪の人生はきっと波乱に満ちている。どんな局面においても、ともに乗り越えられる誠実さと芯の強さが必要になってくるだろう。

ぽつりぽつりと彼女と会話を交わして、直感でこのひとだと確信する。

(彼女ならきっと――)

「――俺と結婚してくれないか」
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