冷酷な騎士団長が手放してくれません
「ですが……」


ソフィアは困惑した。あまり出回ることのないオレンジサファイヤは、とても高価なものだ。それを、もはやニールにとっての特別な存在ではない自分が、持っていても良いものか戸惑う。


「それぐらい、許してくれないか」


ニールは、口角を上げうっすらと微笑むと、オレンジサファイヤのネックレスをしっかりとソフィアに握らせた。


ニールの寂しげな微笑の意味が、ソフィアには分からなかった。だが、胸が締め付けられるような痛みが走り、それ以上は何も言い返せなかった。





「殿下。本当に、何から何までありがとうございました」


頭を垂れれば、ニールは「気にするな」と彼独特の余裕に満ちた笑みを浮かべた。


鞭を手にした御者が、御者席に座り準備を始めた。ソフィアは最後にもう一度一礼すると、馬車に乗り込もうとした。


だが、その直前に突如ニールが地面に片膝をつく。そして、頭を垂れた。




驚きのあまり、ソフィアは一瞬何が起こったのか分からなかった。片膝をつき頭を垂れるのは、服従の証だ。ニールのような高貴な人間がする行動ではない。


顔から血の気が失せ、「殿下、どうしてそんなことを……っ」とソフィアは悲鳴に似た声を上げる。






「君に、しているわけではない」


頭を垂れたまま、ニールは余裕に満ちた声を出す。


「いつか、しかるべき場所でお会いすることを心待ちにしております」


相手の見えないニールの台詞は、妙な重みを孕んでいた。







パニックになりながら、ソフィアは隣にいるリアムを見上げる。


リアムは、じっとニールを見つめていた。深く、想いを巡らせているような表情だ。


そしてリアムは無言のまま瞳を伏せると、先に馬車に乗り込んだ。
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