冷酷な騎士団長が手放してくれません
「明日、騎士団が再び戦場に戻ります。今度は、俺も一緒に行くつもりです」


初冬の湖は、淡い太陽の光を反射して朧げに輝いていた。黄色に色付いた木立が、水面でゆらゆらと揺れている。


湖畔に座るリアムを、ソフィアは呆然と見つめていた。徐々に世界が色を失い、心にぽっかりと穴が開いたような気持ちになる。


「イヤよ。絶対に、駄目」


気づけばソフィアは、駄々をこねる幼子のように繰り返しそう言っていた。涙で滲んだ瞳で、リアムをきつく見据える。


「あなたは、ずっと私の傍にいるって言ったじゃない」





もしも、リアムが死んでしまったら? 戦争に行って、二度と帰って来なかったら?


そう思えば思うほどに、生きた心地がしない。


一生を一緒に添い遂げることが出来なくとも、せめてこの世界にあなたの息吹を感じていたい。


するとリアムは、瞳を伏せた。彼の視線の先にあるのは、傷を負ったソフィアの右手だった。


「もちろん、俺は一生あなたの傍にいるつもりです。その気持ちは、今も昔も変わらない。そのために、行かなければならないのです」


「意味が、分からないわ」


それなら、どうしてソフィアの傍から離れるなどと言うのだろう? リアムの言うことは、矛盾している。






ふいに、リアムが膝の上に無防備に置かれたソフィアの右手を取った。


リアムは、愛しげにその手に頬を寄せる。


「生まれた時、俺はすでに死んでいました。薄暗い空間で、目先にある自分の死だけを意識し、屍のように日々を過ごしていました。だから十年前に殺されかけた時も、ついにその時が来たのだと漠然と思っただけです」


瞼を閉じながら、昔を思い起こすようにリアムは物語る。


「俺は、あの時に死んでいるはずの人間でした。そういう運命だったのです。けれど……」


深海を彷彿とさせるブルーの瞳が、ソフィアを見つめる。


「あなたが、俺の運命を変えた」
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