冷酷な騎士団長が手放してくれません
「そういうことでしたか」


動揺するソフィアを前に、リアムが淡々と返事をする。


「でも、あなたがお優しいのは事実です。この十年間、あなたのお側で感じてきましたから」


青い瞳を、リアムが僅かに細めた。


ソフィアの胸の奥から、安らぎが広がっていく。


ニールに見つめられると恐怖を感じたのに、リアムに見つめられると気持ちが安らぐ。


きっと、ソフィアにとってリアムは体の一部のようなものだからだろう。


十年前、傷を負った手に口づけされた瞬間から、それは決まっていた。


だから、ソフィアはリアムにだけは、どんなことも相談できる。






「ねえ、リアム。男とは、どういう生き物なの?」


リアムの瞳が、珍しく困惑の色を浮かべた。ソフィアの問いが、抽象的過ぎたためだろう。


「私は、男を知らない。男が怖い。男は、どうして女を欲するの?」


ニールのあのしたたかな瞳を思い出すと、また気持ちが落ち着かなくなる。



あの瞳は、父であるアンザム卿がソフィアを見つめる瞳とは違った。アーニャの、姉のような親切心に満ちた瞳とも違った。


ニールは、娘である自分でも、主人である自分でもなく、女としての自分を欲していた。







すっと伸ばされたリアムの指先が、汗に濡れたソフィアの後れ毛を耳に掛ける。


「女は、慈愛に満ちた海のような存在です」


湖畔の風が、リアムの黄金色の髪を揺らした。


「男は、そんな海のような女に、自分の全てを受け止めてもらいたいのです」
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