ふつつかな嫁ですが、富豪社長に溺愛されています
使用人の青年は驚いて私を囲う腕を外し、さらに一歩後ずさる。

よっしーは私の腕を掴んで引き寄せると、ワイシャツの胸に強く抱いた。

彼の肩に頬をつけ、至近距離にある喉仏が上下する様を、私は胸を高鳴らせて見つめる。


彼から伝わる速い呼吸と心音は、焦りの表れだろう。

もしかしたら私の様子を見にゲストルームまで行ったのかもしれない。

そこにいないことを知って、広い屋敷内を探し回ってくれたのか……。


密着する胸と、背中に回されている彼の腕の温もりに、安心とときめきを同時に感じていたら、片言のアラビア語で青年を叱責する厳しい声を聞いて、私はまた焦り始めた。

よっしーの胸から顔を上げ、使用人が悪いのではなく、私が変な誤解を与えてしまったのだと慌てて説明すれば、青年に怒りをぶつけるのはやめてくれた。

その代わりに「なにやってんだよ」と私が叱られる。


やっと誤解が解けた使用人の青年は、頭を下げて謝罪してから、逃げるように立ち去った。

ふたりきりの外廊下に響くのは、噴水の水音と、懇々と説教するよっしーの声。


「一体どんな話し方をすれば、襲われる展開になるんだ。それ以前になぜ迷う? この屋敷はそれほど広くないよ。普通のホテルくらいだろ」

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